第1章 熱帯夜 ♯4



 しかし!
 薄明かりの中に待っていたのは、何ともお粗末な光景だった……。

 部屋の奥にはホンノリと、四角い物体が青白い光を放っている。そしてそれをさえぎるような二つの人影……何やら見覚えのあるシルエットの……。

 要するに、巳咲のパパとママが、テレビを見ていただけだった。

 ああ、またくだらないことのためにムダな時間とパワーを費やしてしまったよ……。せっかくメールまでしたのに、またバカにされんじゃん。思い込みで突っ走る性格のおかげで、巳咲の人生は、その繰り返しである。
 せめて何を見ているかは、一応確認しておこう。テレビ見てただけじゃ、オチとしては弱すぎる。だいたい何でこんな時間に明かりもつけず、まるで隠れるように見ているのか。

 まさか。エロビデオで気分を盛り上げてから……なんてオチじゃないよね。

 ここではテレビがちゃんと見えないので、ほふく前進で忍び込んだ。
 娘がすぐそばにいるんだから、いきなり始めないでよ? 親がヤッてる現場なんて見たくもない。

 さて、両親が見ていたのは、エロビデオではなかった。
 画面に映っていたのは、不気味なほどに愛らしい笑みを浮かべた、アンティークドール。ブロンドの巻き毛、ふっくらしたバラ色の頬、レースで飾った深い紫のドレスに、お揃いの帽子をかぶった人形が、回転台に乗せられて、ゆっくりゆっくり回っている。

 ……一体どういう番組なんだよ?

 テレビショッピングのようにも見えるが、この二人がアンティークドールに興味があるとは思えない。「コワイから」という理由で、せっかくおじいちゃんが買ってくれた雛人形すら、飾らないような親なのだ。それなのにどうして、こんな時間に明かりもつけず、まるで隠れるように見ているのか。

 画面の左から、アナウンサーらしき女が現れた。ゆっくりと人形を抱き上げ、作り笑いを浮かべている。

『……の人形の……あなたの……』

 音が小さすぎて、うまく聞き取れない。真っ赤に塗られた唇が、まるで顔から独立した別の生き物のようにせわしなく動いている。
 巳咲はジッと、耳を澄ました。

『そして……子供をころ…………』

 その微かな声は、子守唄のように、巳咲のまぶたを重くしていった。

posted by レイジ・レーベル at 00:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 熱帯夜
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