第2章 (不)愉快な仲間たち #4




 兄弟かぁ……迷惑な弟だけはマジ勘弁! だってアキオ見てるとさぁ……などと彼の日々の苦労を思っていると、遠くから誰かに呼ばれた気がした。

「……ちゃん、ミサキちゃーん」
 気のせいではなかった。霞は何度も人の名前を呼んでおきながら、教室に入る瞬間明らかに、「ミサキちゃんがもう来てる」顔をした。
 霞はえらく慌てた様子で机やクラスメイトの間をすり抜けると、まるで溺れた人を助け上げるように巳咲の手をつかみ。
「良かったぁ……無事で」
 涙目になりながら、安堵のため息をついた。
「もうすっごい心配したんだよー? メールしようと思ったんだけど落ち着かなくてミサキちゃんち寄ったらもう学校行ったって言うし」
「でもさっき明らかに」
「あぁもう本当に良かった無事で、ミサキちゃんのママは元気ないしハルくんが縁起でもないこと言うからアキオくんはオロオロするし何があったのとか思うじゃない!」
「……あ、あの、カスミちゃん?」
 いつもはおしとやかなカスミちゃん、朝っぱらからのマシンガントークに圧倒されたのは巳咲だけではなかった。さっきからクラスメイト(特に委員長)の視線が痛い。「小沢さん今度は何をやらかしたの」みたいな視線が!
「……あ、ゴメンね、あの……」
 霞もそれに気づいたのか、顔を真っ赤にして、巳咲の耳元でゴニョゴニョ続きを話したが。
「はぁ!? 何じゃそりゃあ!?」
 今度は巳咲が、クラス中がギョッとするような大声を上げてしまった。
〈……ミサキちゃん、昨日、ドロボーと闘ったんでしょ?〉
 カスミちゃんがこんな、予想外のことを言うから!
 巳咲はてっきり、【相談したいことがあるので、よろしくあせあせ(飛び散る汗)】に対して何か言ってくるんだと思っていた。なので、ちょっとここでは話せないんだけど……と、言葉を濁す準備もしていたのだ、ほんの一瞬の間に! それなのにそれなのに、ドロボーって!! そんな昔の話、巳咲はとっくに忘れていた。というか、巳咲の脳が「あれは夢の話である」と勝手に片付けていた。
〈……カスミちゃん、どうして知ってるの?〉
 あれは夢じゃなかったの? 霞に聞いてもしょうがないが、あえて尋ねた。近所のこうるさいババアのごとく聞き耳を立てる委員長を目で威嚇しながら。
 霞はビーズししゅうの手提げから、ケータイを取り出した。
〈……ハルくんから、メールが来たんだけど〉
〈……ハルから?〉
 いつもなら、「ハルの言うことなんか信じちゃダメだよアイツ脳ミソ腐ってんだから」で終わるところだが。
「ちょっと見せて!」
 霞からケータイを奪い取り、メールフォルダを開いた。同じ型を使っているので(巳咲はオレンジ、霞はピンク)、春樹からのメールはすぐに見つかった。いや待て、その前に未読の【相談したいことが】をこっそり消去。カスミちゃんが見る前で良かった、絶対話がややこしくなるから、相談はまた今度にしよう……。
 さて、春樹からのメールは、こうだった。

【くっそーむかっ(怒り) 大変だよ、昨夜ミサキちゃん宅に泥棒がふらふら

「昨夜ミサキちゃん宅に、って……」
 ハルから届いたはずなのに、【大変だよ】から明らかにアキオ口調。めんどくせえ、とか言って、途中から秋生に打たせる場面がありありと浮かぶ。
 さらに。

【ミサキちゃん無事だよね、朝のニュースにも出てないし……ハルなんか悔しがっててさぁ、それって人としてどうなの?】

 完全にアキオ口調。
「あれ? ちょっと待って……ということは」
 巳咲はジェニー(マイケータイ)を開いて、確かめる。
 ということは……やっぱりあった、送信済メールに【超スリルなニュースだぜexclamation×2】が。さらに、春樹からの返信もあった。

【テメー生きてんのか? 遅刻ぎりじゃなかったら、1、3、4組に元気な顔を見せてくださいたらーっ(汗)

 やっぱり途中からアキオ口調……どうでもいいけど。とにかく、あれは夢ではなかったことが証明された。ちなみに『あれ』とは、昨夜の出来事そのものではなく、【今からドロボーを退治するパンチ】なんてメールを送ってしまった事実である。
「ちょっとハルんとこ行ってくる!」
 目的は、元気な顔を見せるためではなく、変なウワサが広まるのを防ぐため。秋生は口が堅く珪人は口が重いので心配ないが、問題は春樹だ。今すぐ止めないと、帰る頃には学校中のウワサになっている可能性大。
 巳咲は教室を飛び出して、すぐ隣の1組に駆け込もうとした、が。

「小沢さぁん? キミのクラスは、こっちだろぅ?」
 背後から、まったり響く独特のテノールが……振り返らなくても声でわかる、巳咲の担任、通称『オペラーマン』だ。ああどうして余計な奴はツボを突くようにイヤなタイミングで邪魔をするのか……この余計プレイのオペラーマンめ、いくら巳咲でも自分の教室は間違えない。
「さぁ早く、席に着いて下さぁい?」
「……」
 巳咲は返事の代わりに大げさなため息をついて、席に戻った。
 こうなったら仕方がない。バッグの中をゴソゴソと何か探すフリして、(不)愉快な仲間たちに言い訳メールを一括送信。

【ドロはカンチガイ。でもちょっとヒミツの事件が。】

 よし。これでみんな(特にハル)は、【ヒミツの事件】に食いつくはず。あえてそう書いたのは、春樹への口止めだけが目的ではない。とはいえ、例のことをみんな(特にハル)に相談したい訳でもない。全く別の理由で、巳咲は彼ら(特にハル)の好奇心を、どこかへそらす必要があったのだ。特に今日は、みんなが集まる、土曜日だから。

posted by レイジ・レーベル at 23:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち
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