第2章 (不)愉快な仲間たち #6



 ……ああ照くん、あなたに会える日は来るのでしょうか?

 不純な動機で食いつくと、後で必ず苦労する。照くんに会えるかも? と夢見心地の巳咲に、自称『リーダー』が無理難題を押しつけてきたのだ。

「ミサキ、オマエまさか、『歌うだけならラクだし』とか、思ってねえよなあ?」
 ああ、思っていたさ! まさに一生の不覚だよ!!

 ……ああ照くん、あなたも苦悩を抱えているの?

 ため息まじりに顔を上げたら、おぞましいものを見てしまった!
「『そう』……『ぼくは君に見せてあげたい』……『この空の青さを そして』……『この輝ける太陽を』!!」
 うるんだ瞳でバーチャルスカイを仰ぎ、まったり響くテノールでオペラのごとく詩を読み上げるポッチャリ童顔の中年男! おい教育委員会! 何でこんなのをウチの学校に派遣した? しかも担任!! その足取りは雲の上を歩むがごとく、まるでホモのフランス詩人のように頬を紅潮させて……
「『早くぼくのそばへおいで』!!」
 行かない方がいいよ絶対!!
 さて、今回の情操教育イベントは、学年詩集の朗読会、という地味な内容であった。そして詩集自体も、ワラ半紙をホチキスでとじただけという、非常に地味な代物である。
「『花も木も光さえも』……『みんな 君を待っているよ』」
 ただ今オペラーマンが酔っているのは、M.Oさん作『キラめく世界』。作者名をイニシャルにとどめるあたり、競争意識の強い親御さんへの配慮が感じられる。こんな詩集でも学年中15人しか載らないからねぇ……。
「『ぼくは風をオーケストラに 歌ってあげる』……『このキラめく世界の歌を』!!」
 こういう作風はちょっとアレだけど……巳咲はM.Oさんの正体が、気になった。ぜひ探し出して、ひとつ、お願いしたいことがある。

 ……M.Oさん、どうか、ミサキのゴーストライターになってください……。

 そう、巳咲はボーカリストの役目として、「作詞」を強要されたのである。秋生は「とりあえずはカバーでいいんじゃない」と言ってくれたのに、春樹は最初からオリジナルをやる気なのだ。

「カバーなんて、生でカラオケやらせる気かよ? やっぱり、詞は歌うヤツが書かねぇと、意味ねぇじゃん」
 ……つーか、ハルのくせに「意味」とか言ってんじゃねぇよ!!

 巳咲には、春樹の言う「意味」の意味がわからない。そもそも巳咲の作品なんて、こんなワラ半紙詩集にすら載ってないのに。誰が書いたっていいじゃん、「バンドっていうのはみんなでひとつの世界を表現することだ」って、レン(マーブのギター)が言ってたよ? しかし、春樹はそういう理屈が通用する相手ではない。

 ……ああ照くん、あなたのいる世界はミサキには遠いみたい。

 このまま何もしなければ、バンドは実質的に始動しない。アイツら(特にハル)が飽きるまでジッと待つか? しかし、バンドが始動しなければ、巳咲は照くんのいる世界にたどり着けないのだ。

 ……そうだ、このジレンマを、詞にしてみようか?

 ふとその気になり、『キラめく世界』の余白に、思いつくまま言葉を書き連ねてみた。照くんも「俺の詞なんて、思いついた言葉をテキトーに並べただけだよ」とか言ってたし!!

 まさにジレンマ
 歌う意味の意味 
 まだ習ってないのにテストに出た漢字みたい
 いつもアイツはランボー ムボー タララ〜


 ……タララ〜、って何だ!!
 よくわかった。巳咲には才能がないのだ。思いついた言葉がテキトーに並ぶだけだ。やっぱりゴーストライターに頼るしかねぇ!

 ……おいオペラーマン、M.Oが誰なのか教えないと呪うぞ、マジで。

「実はぁ、これはわがクラスの生徒の作品、なんですがぁ。言っても構わないかなぁ?」
 巳咲の呪念が通じたのか、オペラーマンの問いかけに「はい!」と立ち上がる人影が。
「この詩は、生まれたばかりの弟のために書きました。えっと実は、私の弟は未熟児で、今もまだ病院にいるんです」

 ……そうか、その弟に早く『キラめく世界』を……なんてね!

 いくら巳咲が一人っ子でサミシくても、「弟が未熟児」が自慢に聞こえるほどハキハキした口調には胸を打たれない。

 さて、未熟児の弟への愛をしたためた、M.Oさんの正体とは?

 ……マサヨ、オノ……テメーかよ、委員長。

 ゴーストライターなど頼めない、頼みたくもない相手であった。

posted by レイジ・レーベル at 01:14 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち
この記事へのコメント
前もブログ書いてたんですけど、また始めてみました♪
ぜひ、よかったらコメくださいな★
Posted by モコたん at 2006年06月25日 02:37
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