第3章 毒虫 #2



 藤野 Touno
 如月 Kisaragi


 ふたつ並んだ表札の下のボタンを押せば、かわいらしいベルの音が鳴り響き、秋生が笑顔で迎えてくれる。双子の両親はレコード屋さんの仕事でたいてい留守、『如月』姓のおじいちゃんもほとんど留守なので、たとえ何があろうとも、兄弟ゲンカの真っ最中でも、秋生は笑顔で玄関を飛び出して来る。物騒な世の中なんだから、インターホンで確認してから開けなさい、と何度言っても、すぐに来る。秋生いわく、ミサキちゃんの押し方は独特だからすぐにわかる、らしい。

「……あれ?」
 来ない。いつものように最初の♪チロリロリ〜ン、が鳴り終わらないうちに2度目を押してから、かなりの間待たされた。このクソ暑い中、大きな梨が5個入った袋の重さで、手がしびれてくるほどに。

「……そういえばあの『M.O』って、ミサキちゃんじゃなかったんだね」
「え? どうして」
「だってイニシャル同じじゃない」
「……ミサキ、オザワ……そうか」
「まさか気づいてなかったんじゃ……」
「え、だってそんな、いちいち自分のイニシャル考える?」
「考えないけど……まだかな、アキオくん」
「うん、遅いよね」
 もう一度チャイムを押してみた。でも、反応はない。
「アキオ、ウンコでもしてるのか?」
「……そういうこと、女の子が言っちゃだめ!」
「ウンコ」
「(無視)でも、ミサキちゃんじゃなくて良かった。あんな路線で作詞されたらちょっと、アレだし」
「うん、ちょっと、ウンコだよね」
「……ミサキちゃんのは、載ってた?」
「ううん、だってミサキ、ウンコほどの才能すらないもん」
「そんな、先生には、わからないだけかもしれないじゃない。どんなの書いたの?」
「……『』ってタイトルでー、『アオムシは、ミドリ色のウインナー』……『ミミズは、太くて短いスパゲティー』……それから……『チョコボールに足をつけたら』」
「もういいよ、ミサキちゃん……」
 霞は巳咲の度重なる「ウンコ」発言と生々しい詩に吐き気をもよおしたが、秋生はまだ、現れない。

「ちょっと、遅すぎない?」
「……ウンコ長すぎるよね」
「だから、そうじゃなくて! どうしてそう緊張感がないのミサキちゃんは!!」
「いや、わかってるから。今ちょっとショッキング映像が頭に浮かんじゃって……」
「え、私も! 何かすごく事件のニオイが……」
「するよね!」
「まさか、アキオくんの身に、何か危険が!?」
 クソ暑いのに長々ムダ話をしたあげく、2人は同じことを考えた。

「ド「ドロボー」だ!!」


 玄関のカギは、開いていた。用心深い秋生が、カギをかけ忘れるとは、考えにくい。チャイムの音で誰が来たかがわかるほど神経質な秋生が、新聞を取りに行く時でさえカギをかけるような秋生が……。

「大変、アキオくんを早く助けなくっちゃ!!」
「キャー!! リアルサスペンス劇場!!」

 秋生はきっと、ロープでグルグル巻きにされ身動きもできず、口をガムテープで塞がれてウガウガもがいているのだ。
 二人は靴を脱ぎ捨て専用のスリッパもはかずにまっしぐら、2階の双子の部屋を目指す。

「……うわぁっ!!」
「大丈夫ミサキちゃん!?」
 あんまり慌てた(もしくは盛り上がりすぎた)ので、巳咲は危うく、階段から転げ落ちるところだった。この階段はらせん状に三角の板が組まれているので、踏み外すと板の間に足を挟んだりしてとっても危ない。
「この階段、カスミちゃんみたい……」
「え? 何か言った?」
 この階段、見た目はカワイイけど、ナメてかかると痛い目に遭うんだよ、カスミちゃんと一緒じゃん! 巳咲はミントグリーンの三角板を一段一段、らせんを20センチ間隔で囲む白いポールにつかまりながら、残りをゆっくり上って行く。

 てっぺんまで、あと半周。いつもならこの辺で、ドラムの振動が足の裏に響いてくるのだが。
「……やっぱり静かすぎるよ」
 階段のてっぺんで、二人は選択を迫られた。秋生を助けるために、女の子二人で頑張るか、それとも大人を呼ぶべきか……ではなく、どっちのドアから入るべきか? である。双子の部屋は真ん中で仕切れば二部屋になる造りなので、ドアがふたつあるのだ。

〈……二手に分かれて、……で、……。〉
〈……うん、で……だね。〉

 二人はテレパシー(口パク+ジェスチャー)で作戦を練り、霞が階段前の水色を、巳咲が奥の黄色のドアノブを握った。

〈……行くよ? せーの!!〉

 テレパシーで合図して、ドアを勢いよく開き、部屋に飛びこむ!!

「大丈夫アキオくん!?」
「今やっつけてあげるからね!!」

 その時二人は完全に、正義のエクスタシーに酔っていた。テーマ曲はもちろんマーブの『緋色』、ヒーロー!!

 しかし、正義のヒーローを待っていたのは、想像を絶するような光景だった!!

posted by レイジ・レーベル at 02:10 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫
この記事へのコメント
前もブログ書いてたんですけど、また始めてみました♪
ぜひ、よかったらコメくださいな★
Posted by モコたん at 2006年06月25日 02:34
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。