第3章 毒虫 #4



「……あー……名前ねぇ」

 ……とうとう気づいてしまったか、そこに。

「じいちゃんに言われるまで、オレら全然気づいてなくてさ」
「電話でね、バンド組んだ話をしたら、『で、名前は?』って」
「そんで、『ヤベエ、まだ決めてなかった!!』」
「……はぁ」

 ミサキは気づいてたけどね、バンドの名前はどうすんの? って。

「つーか五人もいるのに、なんで誰も気づかねぇんだよ!?」
「……私はてっきり、もう決めたものだと思い込んでいたよ」
「じゃあ聞けよ!!」
「……だってパートまで決まってたし……」
 重苦しい空気のトグロは、霞までをも飲みこんで。
「……たぶん、ケイトくんも気づいてない、よね」
「……いやー、バンドやること自体、覚えているかも疑わしいけど」
「つーかアイツ、何も考えてねぇだろ」

 いや、巳咲が思うに、たぶん珪人は、気づいていた。でも、名前を考えるのが(もしくは言うのが)面倒だから、黙っていた。

「盲点だったよ、名前がなければバンドなんか存在しないも同然じゃないか」
 そう、だから巳咲は、あえて黙っていた。そもそもバンドらしいことなんか何もしていないのだが。

「……まったく一生の不覚だよ、普通なら『バンドやろう』って時点で『じゃあ名前決めよう』って……」
 順番間違ってるよね、名前もないのに「作詞しろ」って。

「とにかく、名前! 何かねぇのかよ!?」
「そうだよ、ハルが考えたのなんか、野球とかサッカーチームみたいなのばっかりで!!」


 秋生が丸テーブルに広げたノートには、『藤野ファイターズ』(苗字を入れた自己中の基本)、『スプリンガーズ』(名前を英語にした自己中の基本U)、『ファイブパンカーズ』(パンク系ヒーロー戦隊? 個人的な趣味に走った自己中の基本V)他、『○○○ーズ』の嵐。

「……あ、でもこれはマトモかも」
 巳咲は一番最初に書かれていた、“CRAPS”の文字を指差すが。
「……あ、それはウチの親父が」
「昔組んでたバンドの名前を参考に……」
 その結果が、『藤野ファイターズ』? 参考になっているとは思えませんが。

「あの、念のため聞くけど、どういう音楽をやるかとか、決めてます?」
「……あ」
 霞の発言で、ますます根本的な問題に直面する双子。 
「名前が先か、音楽性が先か……どう思う? アキオ」
「でも、音楽性はやっぱり、やっていくうちに方向性が定まるものかと」
「それじゃ話が進まねぇ!! おいミサキ、オマエも何か言え!!」

 じゃあもう面倒だからやめようぜ!!
 と、言ってやりたいところだが。

「……まぁ、名前聞いて、どういうバンドなのかイメージできるのがいいんじゃないの?」
 とりあえずそれらしいことを言ってみたら、みんな納得。

「……イメージ……じゃあ、パンクっぽい名前って言うと……」
「ちょっとハル、いつの間にパンクバンドに決まったの!?」
「じゃあミサキは何系がいいんだよ!?」
「(べつにやりたかないけど)楽しければそれで……」
「ああ!? テメーやる気あんのかよ!?」
「いやその(確かにないけど)やる気どうのじゃなくって!!」

 俺はべつに、伝えたいことがあって歌ってる訳じゃない。

 雑誌のインタビューで、いつしか照くんが言っていた。

 俺はべつに、伝えたいことがあって歌ってる訳じゃない。だってそこまで立派な人間じゃねぇし(笑) 結果的に何かが伝わるなら、それはそれで素晴らしいことだけど、伝えることを前提にしちゃったら、エゴの押し売りか、共感狙いの歌になるじゃない。 

 巳咲は照くんの言葉を、自分なりにこう解釈した。
「なんか、『みんなに伝えたいことがあるんだ』的なバンドは、ウザイよね」

 たとえば『現代社会は病んでいる』とか『みんな愛を忘れてる』とか熱く語って、何かを教えるみたいに歌うヤツらがいるけれど。
 巳咲は、『伝えることを前提に歌う』ヤツらに、声を大にして言いたい。

 つーかアンタら、人として、そんなに優れてんのかよ?

 たかが小学五年生のガキにそんな疑問を持たれる時点で、そいつらに他人を導く資格などない。
 しつこいようだが、照くんもこう言っていた。

 不思議なんだけどさぁ、同じこと歌ってても、ラヴ&ピースとかね、スーッと感動できる歌と、ワザとらしく聞こえる歌があるんだよね。それはやっぱり、説得力なんだよね、たぶん。ジョン・レノンみたいに歌える人は、そうそういないよ。

「ミサキは絶対、ジョン・レノンには、なれないから!!」
「……よくわかんねぇけど、誰もそんなのオマエに求めてねぇから」
「だよね……ミサキの歌で『救われた』とか言われても、ねぇ」
 でもそういうファンレターもらったら、ちょっとウレシイかも? とも思ったりする。巳咲はホメられて伸びる子だから。

 照くんのことを考えたせいか、巳咲もだんだん、ノッてきた。
「ねぇねぇカスミちゃんは? どういうのがいい?」
「……そうだな、私はねぇ、やるからには売れないとイヤ」
「ええーっ、いきなりプロ志向!?」
 どうにも論点がズレているが、霞の発言でまたまた根本的な問題に直面する双子。
「……そうかプロか、ボクそこまで考えてなかったけど……」
「つーか、プロになんなきゃ、バンドやる意味ねぇじゃん!!」
「でも、ウチの親父はインディーズでも人気あったみたいだよ?」
「じゃなくて、『金もらったらプロ』なんだよ!! 親父がいっつも言ってるじゃねぇか!!」
 こっちの問題は、わりとすぐに解決した。
「でも、どうせならメジャーで売れてやる!!」
「……え、じゃあマジでプロ志向なの!?」

posted by レイジ・レーベル at 03:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫
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