第3章 毒虫 #5



「だってミサキちゃん、メジャーデビューして同じフィールドに立たないと、照くんに会えないよ?」
「会えなきゃ、オマエ、バンドやる意味ねぇじゃん」
「そうだよミサキちゃん、照くんに会うために、バンドやるんじゃない!!」
「……そうか、そうだよね」
 みんなに言いくるめられて、巳咲もプロ志向になった(?)ところで。
「とりあえず、みんなの意見をまとめてみようか」
 秋生はノートのページをめくり、『バンドのイメージ』を書き出していく。

 バンドのイメージ(もしくは理想像) 
 ・パンクバンド
 ・楽しければそれでいい。
 ・「みんなに伝えたいことがあるんだ」的なバンドは、ウザイからダメ。
 ・ミサキちゃんの歌では、救われない。
 ・メジャーで売れること。


「……これじゃ、ノーテンキで身の程知らずなパンクバンドになるんだけど」
 秋生はフッとため息をつき、責め立てるような目で、(春樹ではなく)巳咲を見た。
「マズイなぁ……だってミサキちゃん、フザケた歌詞作りそうだし」
「……は?」


 何それ、人に作詞押しつけておきながら……理不尽なことを言われて黙っている巳咲ではない。
「ちょっとアキオ、だったらアンタは、どんなバンドがやりたいの!?」
 偉そうなことを言いながら、秋生はみんなの意見をノートに書いているだけ、バンドの名前案も出してない。
「ケチつけるのは、自分の意見を出してからにしてください!!」
「そうだそうだ!!」と、巳咲の予定では、ここで春樹の援護射撃が入るはずだったが……春樹はドラムを叩いていた。
 まぁいい。
「……ほら、アキオのことだから、色々考えてんじゃないの?」
「うん、ボク的にはね、ある程度わかりやすいイメージを作った方が、インパクトがあって良いと思うんだけど」
「……だけど?」
「だけど、何!?」と、巳咲の予定では、ここで霞の援護射撃が入るはずだったが……霞はテレビを見ていた。

 まぁ、いい。

 秋生は真顔で、巳咲に尋ねた。
「このメンバーで、『こういうバンドです』ってイメージを、確立できると思う?」

「……どうだろう?」

 巳咲はしばらく、考えた。五人を各パートに並べて、想像した。
 春樹がドラムを叩くのも、秋生がベースを弾くのも、それほど違和感はない。しかし、自分を含めた残り三人は……霞はピラピラ衣装でどう見てもピアノの発表会、自分はカラオケ状態(タンバリン付き)で、珪人に至ってはギターを持つ気配すらなく。

「……なんか、イメージ以前の問題、って気がするんですけど」

「……そうなんだよね、そもそもこのメンバーで、バンドが組織として成立するかが、問題なんだよ」
 秋生は再びため息をつき、責め立てるような目を春樹と霞に向けた。
「ほら、もうすでに、みんなの心がバラバラになってるし……」
 春樹は一流ドラマーみたいな顔をしてヘタクソなドラムを叩き続け、霞は二時間ドラマの再放送(『アイドル刑事ナントカ・寝台特急でどうのこうの』)に夢中。そして珪人に至っては、(誰も気にしてないけど)いまだ姿を見せる気配すらない。

「ねぇアキオ、みんな本当に、やる気あるのかなぁ?」
 巳咲は素朴な疑問を言ったまでだが、この状況(バンドについて語り合っているのは巳咲と秋生だけ)でこのセリフは、完全に秋生を誤解させた。

posted by レイジ・レーベル at 01:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫
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