第3章 毒虫 #6



「そうだよね!! せっかくミサキちゃんが本気になったのに」
 秋生は完全に、バンドのことを真剣に考えているのはボクとミサキちゃんだけだ、と思いこんでしまった。
「動機が不純だっていいじゃない! 照くんに会えるように、頑張ろうよ!!」
 そんなに嬉しそうな顔で「照くん」とか言われると、さすがに巳咲も否定できない。
「ミサキちゃん、今ボク、スッゴイこと考えちゃったよ!!」
 秋生は巳咲の肩を揺すり、鼻息を荒くした。
「あのね、落ち着いて聞いて。もしデビューしたら、ボクらのCDを、マーブのメンバーが聴くかもしれない!!」
「……えっ!?」
 思わず巳咲も、鼻息が荒くなった。
「つまり、照くんがミサキの歌を聴く、ってこと!?」
「そうだよ、そんで、結構気に入ってくれたりして」
「ええーっ!?」
「そんでそんで、ライヴ観に来てくれたりなんてことも!!」
「ギャーッ!!」
 秋生が「スッゴイこと」を言う度に、巳咲もどんどん盛り上がり、二人の妄想は加速をつけて暴走する。巳咲が騒ぎすぎるので目立たないが、実は秋生もマーブが大好きなのだ。
「ねぇアキオ、照くんが楽屋に来たら、どうしよう!?」
「『照くんに会いたい一心で頑張りました』!!」
「それをきっかけに、照くんとラブ……なんて! 年の差なんて関係ないし!!」
「うわぁ〜ズルイ!! ボクもウイちゃん(マーブのベース)なら男同士でもいいや!!」
 暴走しすぎて危ない発言が出るほどのテンションに、春樹も霞も慌ててこちらに戻ってきた。
「なーに二人で盛り上がってんだよ!!」
「そうだよ、私もまぜて!!」
 ……えー、どうするー? 巳咲とアキオは顔を見合わせもったいつけたが、暴走した妄想超特急を急停車できるほど、二人とも器用ではない。
「聞いて、みんな。バンドの未来は、明るいよ!!」
「明るすぎるよ!! もうこれこそ、ボクらの理想の形だよ!!」
 二人は全身から『希望』という名のまばゆいオーラを放ちながら、『バンドの未来』と『理想の形』を書き連ねたノートを公開した!!

 さて、巳咲と秋生が理想とする、明るすぎるバンドの未来とは!? バンドのイメージ(もしくは理想像)
 ・パンクバンド
 ・楽しければそれでいい。
 ・『みんなに伝えたいことがあるんだ』的なバンドは、ウザイからダメ。
 ・ミサキちゃんの歌では、救われない。(誰も求めてないし。)
 ・メジャーで売れること。(マーブが夢中になるほどに)
 ・良く言えば、一言では語りつくせない魅力のあるバンド、だね。

 Marble-quasar
 照くん(Vo) ハーフでマジ金髪なのに英語が苦手、
カワイすぎ 愛し照 
 レンタロー(G) 一流音大出身の超美形!!
 ウイちゃん(B) モッズファッションのクールなベースヒーロー、
ボクのヒーロー、そして世界の希望の星☆
 クラっち(Dr) 復活した伝説のドラマー!!

 My band
 ミサキ(Vo) 実はフランス貴族の娘で生き別れの姉を探している。お姉ちゃーん!!
 アキオ(B) 本業は天文学者、新しい惑星を発見し、「アキオ・スペクタクル」と命名!!


「……なーんで、こんなことになってんだ?」
「理想が全然、見えないんだけど」
「しかも『愛し照』?」
「なぁに? その寒いダジャレ……」
 ツッコミどころ満載すぎて、春樹も霞も、二人の妄想超特急に乗り遅れた。
「貴族とか天文学者とか、バンドと全然、関係ねぇし」
「しかも二人のことしか書いてないし」
「オレらは必要ないんだ?」
「なのにどうして、マーブのことまで書いてるの?」
 それは……憧れのバンドと肩を並べる存在になるために、自分たちはどうあるべきか? を、二人なりに真剣に考えた結果である。他の三人のことを書かなかったのは、悪口しか思いつかなかったから……とはさすがに言えない。
「……じゃあミサキちゃんはバンドのために、架空のお姉ちゃんを探すんだ?」
「……」
「そんでアキオは『アキオ・スペクタクル』を探すんだな、バンドのために」
「……」
 結局二人に見えた『バンドの未来』とは、姉を探すボーカリストと、星を探すベーシストで構成された……
「これじゃあただの、アホバンドじゃない」
 ……アホバンド? その言いっぷりに、巳咲は当然、カチンときた。
「失礼な。カスミちゃんなんて、バンドの名前より犯人考えるのに夢中だったくせにさ」
 すると霞も、巳咲の言いっぷりにカチンときたらしく。
「そっちこそ失礼な。犯人考えながら、バンドの名前も考えました!!」
「……ほほう。だったら聞かせてもらおうじゃない?」
 誰も期待してないが、みんな一応、霞に注目した。
 さて、霞が『アイドル刑事ナントカ・寝台特急でどうのこうの』を見ながら考えた、バンドの名前とは??
「『毒虫』です!!」
「……」
 それは明らかに巳咲の詩、『アオムシはミドリ色のウインナー』からインスパイアされた、じんましんが出そうな名前であった……。

posted by レイジ・レーベル at 16:49 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫
この記事へのコメント
久しぶりに来ました☆更新楽しみにしてますねっ!
Posted by RICO☆ at 2006年06月30日 13:57
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