第4章 リリカル・スイッチ #17



 現在時刻、23:03。

 ♪薔薇を散らして カオスに燃ゆる 愛のフレイム〜

 携帯から突然流れ出した思いがけない歌に、ギョッとしたのは珪人だけではなかった。
「ちょっと何、その悪趣味な着うたは!?」
「テメー、そんなウザイの入れてんなよ!!」
 双子の露骨な拒絶反応に、珪人は慌てて携帯を開く。こんな歌を入れた覚えはないものの、誰の仕業なのかは双子の目(耳?)にも明らかだ。
 珪人を挟む格好で、双子は携帯を覗き込む。
「……やっぱりアイリーンだ」
「つーかアイリーン以外いねぇだろ」
 なぜならその着うたは、珪人の姉が崇拝するゴス系バンド、trois-croix(トルワ・クルワ)のデビュー曲だったからである。
「どうでもいいけど、テメーらこそ人の姉貴を『アイリーン』呼ばわりすんなよ」
 本当にどうでもいいが、今やその呼び名が姉のチームにまで浸透し、珪人まで恥ずかしい名前で呼ばれて迷惑している。

【ゴメンねたらーっ(汗)ケイティ】

 件名で、珪人が姉たちに『ケイティ』呼ばわりなのが、早速バレた。
「……ブハッ!! 『ケイティ』だってよ!!」
「ちょっとハル、そんなに笑っちゃ悪いよ〜」
 爆笑する春樹と、笑いを堪えきれない秋生。
「……」
 珪人は何か言い返そうと思ったが、とりあえず放置。【例のサイトのURLなんだけど、最後の/が抜けてたの。本当に「デタラメ教えんなよアイリーン」だよバッド(下向き矢印) アキオくんに、謝っておいて。じゃあね、ちゃんといい気分(温泉)入るんだよ黒ハート おやすみケイティハートたち(複数ハート)

「……ブハッ!! ちゃんとフロ入れよ、ケイティ!!」
 春樹はまた爆笑していたが、秋生はなぜか、フリーズしていた。
「……まさかアイリーン……モヤモヤ日記を……?」
 秋生は意味不明なことを呟きながらフラフラ立ち上がり、再びパソコンに向かう。
「……とりあえず、スラッシュ足してアクセスしてみるよ……」
 明らかに秋生は、何かに対して強いショックを受けていた。
「本当に、デタラメ教えるなよアイリーン、だよ……」
 彼は一見、無駄な労力を使ったことを悔いているようだが、他に何かあるな、と珪人は睨んだ。メールの【サイトのURL】という言葉が、どうも不自然だからである。「ホームページとサイトって何が違うの?」とか「アドレスとURLって何が違うの!?」などとキレる姉が、なぜあえて【サイトのURL】と?
 …………。
 そしてなぜ、あえて【アキオくんに、謝っておいて。】なのか。まるで、秋生だけがパソコンに向かっていたのを、知っているような言い方である。
 …………。
 考えるのが面倒になったので、携帯の電源を切って、姉の存在ごと放置。珪人は疑問に思っても深く追及しないので、世の中はわからないことだらけだ。

posted by レイジ・レーベル at 02:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ
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