第4章 リリカル・スイッチ #18



 現在時刻、23:19。

【本当に「デタラメ教えんなよアイリーン」だよバッド(下向き矢印) アキオくんに、謝っておいて。】

 藍里のメールには、秋生への、あるメッセージが隠されていた。【謝っておいて】ではなく、その前の文章に、である。
「……まさかアイリーン……『モヤモヤ日記』を……?」

【「デタラメ教えんなよアイリーン」】
 
 それは藍里が、秋生の『モヤモヤ日記』を、読んでいることを意味していた。なぜなら、今日書いた文をそのまま抜粋しているからである。ボクの周りにブログなんか読むヤツはいないし、そう思って日々のモヤモヤを実名でつづってきたが、甘かった。
「どうして何もかも知ってんだあの女は!?」
「……盗聴でもされてんじゃないの?」
 夕方、珪人とそんな会話を交わしたが、何のことはない。藍里が何もかも知っているのは、秋生のブログを読んでいたからである。バンドのことも今日のお泊り会のことも、巳咲が見たネット放送のことも、ブログに書いた覚えがある。ということは……ちょっと待てよ、ボク前にもアイリーンのこと書いてなかった!?
 しかし、今ここで『モヤモヤ日記』を開く訳にはいかない。今さら藍里の悪口を書いたことに気づいても、どうせもう手遅れである。

「……とりあえず、スラッシュ足してアクセスしてみるよ……」
 秋生はもう、巳咲が見たネット放送になんか興味はなかったが、無駄な労力を使ったことにイラついてみせ、心の動揺をごまかすしかなかった。
「……本当に、『デタラメ教えんなよアイリーン』だよ……」
 どうせなら、藍里のメモでは[http]と[//]の間の[:]が抜けていたことも指摘すれば良かったのだ。賢明な秋生はすぐ間違いに気づいたが。 http://www.neverland.…………/を開いています

「……今度こそ、大丈夫だよね」
 秋生は祈るような気持ちで、画面をじっと、見守った。もう興味はなくても、見ると決めたものは絶対見る。何事も初志貫徹が秋生のポリシーなのだ。

「……やった、つながった!!」
  
NEVERLAND
HAPPY TOMORROW〜for our children〜


 トップページのタイトルに、秋生は少々、ガッカリした。
「……何これ……なんて安直な……」
 英語にすればそれらしく見えるだろう、とか思ってるよな、絶対。浅はかなネーミングは、あらゆる視点からバンド名を検討している秋生にとって、「私は凡庸な感性の持ち主です」と、自ら恥を晒すようなものである。
 そしてこの、オープニング!!

 〜ネバーランドからのメッセージ〜

 なんかもう、見るだけで恥ずかしい。まず、ピーターパンみたいなキャラクターが、「ねぇ、大人になるには、どうしたらいいの?」とか色々聞いてくる。つーか、自問自答を繰り返している。「子供たちの明日は、世界の明日なんだね」とか、「子供たちは、家庭という宝箱で大切にされてるんだね」とか、一人で納得している。そしてピーターパンもどきは「じゃあボクも、彼らが素晴らしい大人になるために、手伝うよ」などと言い、ピューンと飛んで行くのだ。

 春樹が目をこすりながら、画面を覗き込んできた。
「なぁアキオ、一体どういうサイトなんだよ?」
「……要するに、『アナタの子供の幸せな未来をサポートします』ってことらしいよ」
「……ふーん、おせっかいなヤツがいるんだな」
「じゃあオレらが見ても、意味ねーじゃん」
 珪人はすぐに、興味を失ったようだ。床にゴロリと寝そべって、いつの間に見つけたのか、ギター教本をパラパラめくっている。
「だいたい、そんなサイト見て、何かメリットあんのかよ」
 確かにそうなんだけど……秋生はメゲずに、初志貫徹。春樹も眠い目をこすりながら、横で一生懸命見ている。どうやら彼は、何かを期待しているようだ。
 さて、秋生はふと、くだらないことで「やっぱり双子だな」と実感することがある。この時もまさに、そうだった。
「……なぁアキオ、これさぁ、ヘンな宗教とかじゃねぇよな?」
「……」
「それとも、実はコイツら、世界征服を狙う悪の組織とか?」
「……」
 さすが双子、考えることは同じである。どうせならもっと別のことで通じ合えたら……と思う今日この頃だが、とりあえず今はネバーランド(?)に行こう。画面右下の羽根マーク、『ネバーランドへの入り口』を、クリック。

 各種サービスのご利用にあたり、会員登録が必要です。(登録料無料)

 いきなり現実的なネバーランド、各種サービスとは、例のネット放送も含むのか?
「どうする? ハル。登録しないと、見れないらしいよ?」
「じゃあ、親父の名前使えばいいじゃん」

 氏名:藤野 樹生

「……どうでもいいけどさ、ウチは『トウノ』なのに『フジノ』って読むヤツ、ムカつかねぇ?」
「……まぁね。だからこういうのには、フリガナ欄があるんだよ」

 住所:神奈川県横浜市

「……やっぱり、親父に黙って登録するのは、マズイんじゃない?」
「なんで」
「ほら、ヘタに住所入れて、家にヘンな物送られてきたら……」
「……ダッチワイフとか?」
「……そんなの送ってきたら、ある意味面白いけどね」

 アンケートに、ご協力お願いします。

「なんか、子供について、細かく質問が」
「テキトーでいいよ、ミサキでいいじゃん」
「……1人、娘……小学校、5年生」

 趣味:お絵かき
 特技:どこでも寝る


「その特技はミサキじゃなくて、コイツだろ」
「うん、さっきからケイトが寝てるのが気になって」

 この内容で登録する  キャンセル

「……いいのかなぁ、登録しちゃって」
「もういいから早くしろよ。おい、起きろケイト!!」

 ネバーランドへ、ようこそ。

posted by レイジ・レーベル at 23:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ
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