第5章 スパイ #10



 どうして世の中には、こうもジャマ者が多いのか。

 巳咲は恨めしそうに、おかわりラッシュを見つめていた。

 ……こっちはもう片付けたいのに、給食と『ランチ食べ放題』をカンチガイしてないか?

 時間的には、そろそろ片付けて教室を出ても許される頃である。しかし、今日のメインが人気メニューのミートソースだった上に、給食当番が小心者だったため、おかわりをするヤツがいつもより多い。小心者は「全員に回らなかったらどうしよう」とチマチマ配るので、結果、一人当たりの量が少なく、ナベには大量に残るのだ。おかわりしてくれ、と言わんばかりである。

 モタモタしてたら、ハルが校庭出ちゃうよ!!
 
 逆恨みだとわかってはいるが……今日のメインをミートソースにした給食センターと、小心者の給食係と、何よりこのクソ暑いのに食欲旺盛なクラスメイトを、恨まずにはいられない。

 胃にブラックホールでも開いてんじゃないの、アイツら?

 おかわりに殺到する面々を見ていると、どうも、脳まで栄養が行き届いてないヤツが多いようだ。

身長にだけ栄養が行く人、運動神経で使い果たす人、ひたすら体に蓄積するだけの人……よく食うからデブなのか、デブだからよく食うのか……ここ1年で身長は5センチも伸びたのに体重は1グラムも増えない巳咲にとって、デブはナゾの生き物である。デブに運動オンチが多いのは体が重いせいなのか、それとも生まれつき運動神経が鈍く動かないからデブなのか……。

 ナゾの生き物について考えているうちに、やっとおかわりラッシュが終わった。
「先に1組行って、ハルつかまえて!! アキオは図書館行けば見つかるし!!」
 双子の確保は霞に任せて、巳咲は4組へまっしぐら!! 双子のクラスは1、3組で両隣だが、珪人のいる4組までは、間に階段やトイレがあるので、結構遠い。

「ケイト、いる!?」
 巳咲は息を切らしてお腹を押さえながら、教室を見回した。どうでもいいが、どうして食後に走ると横っ腹が痛くなるのか。
「……なんだよミサキ」
 珪人はちょうど、給食台からナベを持ち上げるところだった。
「……あれ? 給食当番だったの?」
 まさかと思い、巳咲はナベのフタを開けてみた。中身は見事に、空である。
「……ねぇ、ミートソース、足りた?」
 クールな見た目によらず、珪人は、おかずを豪快に配るタイプなのである。始めに気前よく盛りすぎて、途中でおかずが足りなくなるという失態を、同じクラスだった頃に何度も見た。
「……なに笑ってんだよテメー」
 そんなことを言われても。珪人が顔を真っ赤にして、みんなの皿からミートソースをチマチマ集める姿を想像すると……。

 しかし、珪人をバカにすると、後がコワイ。

「オマエ手伝え、休んだヤツの代理!!」
 珪人はナベを他の子に渡して、牛乳ビンのケースに手をかけた。
「ほら、さっさとそっち持つ!!」
「え!? ヤダよ、男なんだから1人で運べば!?」
「でもオレ、ギタリストだから」
「……何それ……」

 ギタリストは、牛乳ビンを1人で運んじゃいけないのか?

 そもそも、休んだヤツの代理なら、同じクラスの人がやるべきである。なのにどうして巳咲が、よりによって一番重たい牛乳ビンを運ぶハメになるのか。

 ああもう……今日はまさに厄日だよ!!

 邪悪な視線を感じて、巳咲は教室の片隅をニラミ返した。
「ねぇ、良かったら、『王子』と運ぶ権利、譲ってあげようか〜?」
 すると、邪悪な視線の主たちは、パッと目をそらした。珪人を『王子』とか呼んでキャーキャー言ってる、バカ女どものことである。

 ……ったくアイツら、1人じゃ何もできないくせに。どうせなら、アイリーンチーム並みの積極性を持てよ!!

 さて、こんなバカ女どもに、気を取られている場合ではない。巳咲はケースに手をかけながら、再び教室を見回した。
「……あ」
 見つけた。先生の机の上に、キリンのヌイグルミを発見!! 牛乳ビンの重さがなければ、ウッカリそれを、指差すところだった。
 
 ねぇケイト、あのキリンさん、絶対隠しカメラ入ってるよね!?

 そう言いたいのを、巳咲はグッとガマンした。もし今、本当に盗撮されていたら、犯人にマークされてしまうではないか。しかも4組の担任は、口うるさいことで有名な、通称『バババー』(名字が『馬場』でババアだから)である。
 早く教えてあげたいけど……とりあえず、さっさと牛乳ビンを運ばなければ。

「ケイト、みんなが屋上で待ってるから、急ごう!」

 巳咲はただでさえ長い廊下を歩きながら、重い物を運んでいる時も体感距離が2倍になることを知った。

posted by レイジ・レーベル at 02:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第5章 スパイ
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