第2章 (不)愉快な仲間たち #6



 ……ああ照くん、あなたに会える日は来るのでしょうか?

 不純な動機で食いつくと、後で必ず苦労する。照くんに会えるかも? と夢見心地の巳咲に、自称『リーダー』が無理難題を押しつけてきたのだ。

「ミサキ、オマエまさか、『歌うだけならラクだし』とか、思ってねえよなあ?」
 ああ、思っていたさ! まさに一生の不覚だよ!!

 ……ああ照くん、あなたも苦悩を抱えているの?

 ため息まじりに顔を上げたら、おぞましいものを見てしまった!
「『そう』……『ぼくは君に見せてあげたい』……『この空の青さを そして』……『この輝ける太陽を』!!」
 うるんだ瞳でバーチャルスカイを仰ぎ、まったり響くテノールでオペラのごとく詩を読み上げるポッチャリ童顔の中年男! おい教育委員会! 何でこんなのをウチの学校に派遣した? しかも担任!! その足取りは雲の上を歩むがごとく、まるでホモのフランス詩人のように頬を紅潮させて……
「『早くぼくのそばへおいで』!!」
 行かない方がいいよ絶対!!
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posted by レイジ・レーベル at 01:14 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち

第2章 (不)愉快な仲間たち #5



 土曜の午後はたいてい、学校がある時もない時も、巳咲たちは双子の家に集合する。特別みんなで何をする訳でもなく、なんとなく集まって、好き勝手にくつろぐのだ。
 巳咲の主な目的は、CDである。双子の父がレコード屋を開くほどの音楽好きなので、家にも歴史的な名盤から発売前の最新作、明日のスターを目指すインディーズ盤まで、幅広く揃っているのだ。


 さて、あれはつい先週のことだった。巳咲は買ったばかりのマーブのニューシングル『蜜か月』に陶酔し、霞はサスペンスドラマの再放送に熱中し、珪人は宿題を秋生に手伝わせていた、そんな中で、ある人物がとんでもないことを言い出した。

「なぁ、そろそろオレらも、バンドやろうぜ!!」

 春樹の口調は、まるで以前からみんなで話し合っていたかのようだったが。
「ちょっと待って、バンド?」
 もちろん、今まで誰一人、「バンドやりたいね」なんて言ったことはない。確かに音楽好きならごく自然な発想で、数週間前から双子の部屋にその気配は感じていたが。
「……『オレら』ってまさか、この5人じゃないよね?」
 巳咲は今この瞬間まで、自分には関係ないもの、と油断していた。
 しかし。
「この5人に決まってんじゃん。他に誰がいる? なぁアキオ」
「……え、いや、その……」
 春樹の「他に誰がいる」宣言の瞬間、霞の目がギラリと反逆的に光ったのを、(そして珪人が全く無反応なのも)巳咲は見逃さなかった。続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 01:10 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち

第2章 (不)愉快な仲間たち #4




 兄弟かぁ……迷惑な弟だけはマジ勘弁! だってアキオ見てるとさぁ……などと彼の日々の苦労を思っていると、遠くから誰かに呼ばれた気がした。

「……ちゃん、ミサキちゃーん」
 気のせいではなかった。霞は何度も人の名前を呼んでおきながら、教室に入る瞬間明らかに、「ミサキちゃんがもう来てる」顔をした。
 霞はえらく慌てた様子で机やクラスメイトの間をすり抜けると、まるで溺れた人を助け上げるように巳咲の手をつかみ。
「良かったぁ……無事で」
 涙目になりながら、安堵のため息をついた。
「もうすっごい心配したんだよー? メールしようと思ったんだけど落ち着かなくてミサキちゃんち寄ったらもう学校行ったって言うし」
「でもさっき明らかに」
「あぁもう本当に良かった無事で、ミサキちゃんのママは元気ないしハルくんが縁起でもないこと言うからアキオくんはオロオロするし何があったのとか思うじゃない!」
「……あ、あの、カスミちゃん?」
 いつもはおしとやかなカスミちゃん、朝っぱらからのマシンガントークに圧倒されたのは巳咲だけではなかった。さっきからクラスメイト(特に委員長)の視線が痛い。「小沢さん今度は何をやらかしたの」みたいな視線が!
「……あ、ゴメンね、あの……」
 霞もそれに気づいたのか、顔を真っ赤にして、巳咲の耳元でゴニョゴニョ続きを話したが。
「はぁ!? 何じゃそりゃあ!?」
 今度は巳咲が、クラス中がギョッとするような大声を上げてしまった。
〈……ミサキちゃん、昨日、ドロボーと闘ったんでしょ?〉
 カスミちゃんがこんな、予想外のことを言うから!
 巳咲はてっきり、【相談したいことがあるので、よろしくあせあせ(飛び散る汗)】に対して何か言ってくるんだと思っていた。なので、ちょっとここでは話せないんだけど……と、言葉を濁す準備もしていたのだ、ほんの一瞬の間に! それなのにそれなのに、ドロボーって!! そんな昔の話、巳咲はとっくに忘れていた。というか、巳咲の脳が「あれは夢の話である」と勝手に片付けていた。
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posted by レイジ・レーベル at 23:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち

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