第2章 (不)愉快な仲間たち #3



 たまに不愉快な仲間たちとの出会いは、幼稚園までさかのぼる。

 まず、最初にできたお友達が、杉浦霞ちゃん。グラビアアイドルみたいな名前の、小柄でおとなしい女の子。お姫様みたいなフリフリの服を着てとにかくカワイかったので、巳咲は一目で気に入って、「オトモダチになって!」と声をかけた。霞は明らかに引いていたが(後に「女の子にナンパされてビックリした」と語っていた)が、とにかくそれがきっかけで仲良くなった。

 さて、二人がそろそろ幼稚園生活に慣れてきた、ある日のことである。巳咲がちょっと目を離したスキに、霞が誰かに泣かされた。彼女はおとなしくてカワイイので、そういうターゲットにされやすいのだ。
「ミサキが仕返ししてあげる」
 イヤがる霞の手を引いて、巳咲はいじめっ子を探しに行った。「この幼稚園の平和はミサキが守る!」などとヒーローめいたことを言いながら。しかし本当はただ単に、ケンカをしてみたかっただけである。巳咲は一人っ子なので、今までケンカらしいケンカをしたことがなかったのだ。
 霞を泣かせた男の子は、すぐに見つかった。彼は花壇の前にしゃがんで、虫を見ているようである。
「ちょっと! そこの虫見てるヒト〜!!」
 名前など知らないのでそう呼ぶと、彼はヒョイと立ち上がり、しばらく辺りを見回してからやっと、巳咲たちに気づいた。
「あの、それってボクのこと?」
 テメー以外に誰がいるんだよ? 彼のトボケた態度が、巳咲の闘争本能に火をつけた。アンタ今、自分以外に『虫見てるヒト』がいないかチェックしたでしょうが!
「アンタねえ、女の子泣かせて、タダで済むと思ってんの?」
 巳咲は彼の胸ぐらをつかみ、コブシを振り上げる。
 すると。
「……ちょっ、待って……」
 いじめっ子は情けない声を出して、ジワーッと目をうるませた。
「……ウグッ、グゲッ……」
 まだ殴ってもいないのに、奇声を発しながら大粒の涙をポロポロと……。
 その涙は、巳咲にある種の残虐性を、芽生えさせた。
「見て、カスミちゃん。コイツもう泣いてるよ?」
「もういいよ、ミサキちゃん……」
 つられて霞までもが涙目になっていたが、巳咲は全然気にしない。むしろ二人の涙に、かつて味わったことのない充足感すら覚えてしまう。
「アンタさぁ、そうやってすぐ泣くから、自分より弱い子いじめて強くなった気でいるんでしょ。男のくせに、ちょーインケンだよね!」
 ああフシギ……今日初めて会ったのに、彼をけなす言葉が湯水のようにあふれ出す。
「アンタは男のクズっていうか、ヒトとしてサイテーだよね、マジで。もう人間やめればー? そうだ今日から虫になりなよ、虫! 泣き虫、弱虫! 『ムシオ』! おいムシオ、人間のよーちえんに来てんじゃねーよ、バーカ!!」
 ムシオはただうつむいて、肩を震わせいるだけだ。どうして何も言い返さないのか、これじゃケンカになりゃしない。
「ねえカスミちゃん、どうしてこんな弱っちいのに泣かされたの?」
 いくらおとなしいからって、こんなのに負けてたら世の中渡って行けないよ? 巳咲が霞の未来を案じていると。続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 02:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち

第2章 (不)愉快な仲間たち #2



 ♪蜜か月にじむ 落ちてく向こう側へと

 マーブ(マーブル・クエーサーの略)の新曲『蜜か月(みかづき)』を歌いながら、黒板にヒマワリ畑の絵を描いていると。
「小沢さんって、朝っぱらから本当にノーテンキよねえ。悩みなんか全然ないでしょ」
 いつも教室一番乗りが自慢の委員長(単なるあだ名)が、イヤミをブチかましながら入ってきた。しかも一番盛り上がるサビを歌っている時に!
「歌も絵もとっても上手でうらやましいんだけど、黒板、キレイに消してよ? 日直の人に迷惑だから」
 テメー、ゴタクの前にまず「おはよう」だろ!! どうしてウザイ奴は本当にツボを突くように、イラッとするタイミングで、他人を不快にさせるのか。
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posted by レイジ・レーベル at 02:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち

第2章 (不)愉快な仲間たち #1



 ♪夜曇見上げた 羽ばたく向こう側へと

 まだ誰もいないのをいいことに、巳咲は教室へ入るなり声を張り上げて歌い出した。
 今日は2ケ月に一度の土曜登校日。情操教育という名目で、地元青年団のミュージカル(主にイジメを扱ったベタな話)を見せられたり、河原のゴミ拾いをさせられたり……要するに『良い子』をやらされるわけだ。
 いつもならウザイばかりの登校日。だけど今日は、ありがとう登校日。今日に限っては、例えばいい大人がランドセル姿で『みんなトモダチ〜♪』などと歌い踊るのを見る方が、家にいるよりはマシなのだ。


 べつに深い意味はなかった。巳咲はただ、聞いてみただけだった。今日はカサいらないよね、ぐらいの、軽い気持ちで。
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posted by レイジ・レーベル at 00:46 | Comment(2) | TrackBack(0) | 第2章 (不)愉快な仲間たち

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