第3章 毒虫 #3



「…………?」
 部屋の中には、どんよりと重苦しい空気が、トグロを巻いていた。
 真ん中あたり、水色の丸テーブルの陰に、誰かがグッタリ倒れていた。そしてそのそばには、ゾッとするほど冷ややかな顔をした……。

「……???」
 あまりに理解しがたい状況に、巳咲と霞は、とりあえず廊下へ避難した。
「……ちょっと待って、カスミちゃん。何か今、ありえないことが、起きてなかった?」
「……何か今、怒鳴られたよね?」
「……ねぇ、あれ、どっちだった?」
 落ち着いて、考えよう。
 部屋には、同じ顔が、二人いた。いつもなら腕を見ただけでも、日焼けぐあいで見分けがつくのに、一瞬どっちがどっちかわからなかった。
 一人は、テーブルの陰に倒れ、グッタリしていた。そしてもう一人が、ゾッとするほど冷ややかな顔をこっちへ向けて、怒鳴ったのだ。
「うるさいなぁ、何なの、一体!?」
 ……ありえないけど、まさか今怒鳴ったのは? 巳咲は霞の手を引いて、恐る恐る、中を覗く。

 まさか今怒鳴ったのは、色白の方なのか……!?



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posted by レイジ・レーベル at 00:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫

第3章 毒虫 #2



 藤野 Touno
 如月 Kisaragi


 ふたつ並んだ表札の下のボタンを押せば、かわいらしいベルの音が鳴り響き、秋生が笑顔で迎えてくれる。双子の両親はレコード屋さんの仕事でたいてい留守、『如月』姓のおじいちゃんもほとんど留守なので、たとえ何があろうとも、兄弟ゲンカの真っ最中でも、秋生は笑顔で玄関を飛び出して来る。物騒な世の中なんだから、インターホンで確認してから開けなさい、と何度言っても、すぐに来る。秋生いわく、ミサキちゃんの押し方は独特だからすぐにわかる、らしい。

「……あれ?」
 来ない。いつものように最初の♪チロリロリ〜ン、が鳴り終わらないうちに2度目を押してから、かなりの間待たされた。このクソ暑い中、大きな梨が5個入った袋の重さで、手がしびれてくるほどに。

「……そういえばあの『M.O』って、ミサキちゃんじゃなかったんだね」
「え? どうして」
「だってイニシャル同じじゃない」
「……ミサキ、オザワ……そうか」
「まさか気づいてなかったんじゃ……」
「え、だってそんな、いちいち自分のイニシャル考える?」
「考えないけど……まだかな、アキオくん」
「うん、遅いよね」
 もう一度チャイムを押してみた。でも、反応はない。
「アキオ、ウンコでもしてるのか?」
「……そういうこと、女の子が言っちゃだめ!」
「ウンコ」
「(無視)でも、ミサキちゃんじゃなくて良かった。あんな路線で作詞されたらちょっと、アレだし」
「うん、ちょっと、ウンコだよね」
「……ミサキちゃんのは、載ってた?」
「ううん、だってミサキ、ウンコほどの才能すらないもん」
「そんな、先生には、わからないだけかもしれないじゃない。どんなの書いたの?」
「……『』ってタイトルでー、『アオムシは、ミドリ色のウインナー』……『ミミズは、太くて短いスパゲティー』……それから……『チョコボールに足をつけたら』」
「もういいよ、ミサキちゃん……」
 霞は巳咲の度重なる「ウンコ」発言と生々しい詩に吐き気をもよおしたが、秋生はまだ、現れない。

「ちょっと、遅すぎない?」
「……ウンコ長すぎるよね」
「だから、そうじゃなくて! どうしてそう緊張感がないのミサキちゃんは!!」
「いや、わかってるから。今ちょっとショッキング映像が頭に浮かんじゃって……」
「え、私も! 何かすごく事件のニオイが……」
「するよね!」
「まさか、アキオくんの身に、何か危険が!?」
 クソ暑いのに長々ムダ話をしたあげく、2人は同じことを考えた。

「ド「ドロボー」だ!!」


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posted by レイジ・レーベル at 02:10 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫

第3章 毒虫 #1



 昼食は、冷やし中華だった。いつものようにキムチを混ぜて食べたが、あまりおいしく感じなかった。いつものように「今日は学校で何をしたの?」と尋ねるママの笑顔が、やけにしらじらしく感じたからだ。今朝のことなんか忘れたように振舞うママに、巳咲の心はモヤモヤと曇るばかりだった。

 決して、委員長の詩に、心を揺さぶられた訳ではない。
「私はこんなに弟のことを思っているのよ」
 そう言わんばかりの詩、そして誇らしげなあの態度。いつもなら、「ウザイ」の一言で終わる話だ。
 でも。
「弟も妹もいらない!」
 巳咲は、その言葉の残酷さに、気づいてしまった。あんな委員長の詩ごときで。まるで当然の権利のように「いらない」と言った自分が、ショックだった。
「いらないから、殺してよ」
 そう言ったようなものなのだ。
 もし、カスミちゃんのお兄ちゃんが「妹なんかいらない」と言っていたら、もしケイトのお姉ちゃんが「弟なんかいらない」と言っていたら……そう考えると怖くなった。
 それでも、素直に受け入れられない自分がいる。いい年して恥ずかしい、という気持ちもある。でも、家族が増えることよりも、誰かの都合で自分の生活が変わってしまう、それが何だか、やりきれないのだ。

 ねぇママ、ミサキだけじゃ、不満なの?

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posted by レイジ・レーベル at 00:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第3章 毒虫

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