第4章 リリカル・スイッチ #12



【ギター天国グッド(上向き矢印)

 春樹からのメールには、画像が添付されていた。どうせまたアキオにやらせたんだろうけど……なるほど、春樹と珪人は文字通り『ギター天国』にいるらしい。ヤツらは色んなギターをとっかえひっかえ、色んなポーズで何枚も何枚も……しかも中には、照くんが『蜜か月』のPVで弾いていたのと同じギターまであった。秋生が言ってた「親父も持ってるよ、ああいうゴールドのレスポール」である。

「……神様って、不公平だよね」
 巳咲はジェニー(ケータイ)を握ったまま、ベッドにグッタリ横たわった。
「双子の家には照くんと同じギターがあるのに、どうしてウチはライフルなの?」
 それは、パパの趣味が狩猟だからである。冬休みに東北へカモ猟に連れて行かれたこともあった。ただ見てるだけだったけど。猟をするには、資格とか、色々細かいルールがあるらしい。むやみやたらに撃っちゃダメなのだ。撃っていい獲物も1日に撃てる獲物の数も決まっている。猟をできる場所も期間も決まっている。猟犬もビシッとキマッている。巳咲は子供心に、もっとのびのび楽しめないの? と思ったものだが。
「……そうか、そういうことなのか」
 巳咲にも、何となくわかった。
 パパはもっとのびのび楽しみたくなって、細かいルールは関係なしに、むやみやたらに撃ってみた。
「……その結果が、アレか……」
 そう、パパは銃刀法に問われないライフルを、ぶっ放したのである。
 
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posted by レイジ・レーベル at 23:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

第4章 リリカル・スイッチ #11



 現在時刻、21:14。
 秋生は今日、どうしても見たいテレビがあった。
『ヒトの不思議―ココロはどこにある?』
 ハルのいない時にゆっくり見よう、そう思って、録画予約をしたのだが。

 うわあぁ見たい!! やっぱり今見たい!! ヒトのココロは一体どこにあるんだよ!?

 春樹を見ていると、どうも脳の働きとは別の何かの仕業に思えてくる。そう、たとえば反射神経とか? 春樹には、思考回路というものがない。ヤツは、本能だけで生きている。要するに、大脳旧皮質しか機能してないんだよ!!
 秋生は脳細胞がプチプチと音を立てて破裂するのを感じながら、その憤りを大脳新皮質が司る理性で抑えているのだ。
 そう、今この瞬間も。

「どうだケイト、すげえだろ! ここはギター天国だぜ!!」
 何が『天国』だ、ボクには『地獄』だよ!!
 ここは親父の書斎(という名の趣味の部屋)、無許可では入れない(特にハルは出入り禁止の)、いわばサンクチュアリである。
「ハル、勝手に触っちゃダメだって!!」
「うるせーなぁ、勝手に入っておいて『触っていい?』とか言うバカがいるかよ!?」
「……いや、そういう問題じゃなくて。メチャクチャ高いギターもあるんだからさ……」
 親父にバレたらマジでブッ殺されるって!! 本当は怒鳴りたいのを、秋生は理性で抑えつけた。ああ、またプチプチと脳細胞が死んでゆく……ボクの頭の中は細胞の死骸でカサカサだよ……。
「……あのさぁ二人とも、何のためにここに忍び込んだのか、わかってる?」
 目的は、珪人にギターを見せることではない。この部屋にしか、パソコンがないからだ。いつまでも変な酔っ払い親父たちに囲まれててもしょうがないし、暇だから例のネット放送を見てみよう、という話になったのだ。続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 18:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

第4章 リリカル・スイッチ #10



【ミサキちゃん、今日来れないって聞いたんだけど、どうしたの?】

 ……本当にどうしてあの人は……。
 秋生はため息をつきながら、パタンと携帯を閉じた。予想はしてたけど、巳咲からの返信は、いまだにない。
 常識的に考えて、巳咲はまず、今日来れなくなったことを報告すべきである。それなのに。

【バクちゃんに、マーブのポスターもらったよぴかぴか(新しい)

 そのメール以降、何の音沙汰もない。こっちは何度もメールや留守電入れたのに……せめて【今日行けなくてゴメンね】ぐらい、返して来てもいいだろう! どうして本人じゃなくて、ウチの親父から聞かされるんだ!?
 親父は帰って来るなり「サミシイなぁオマエら」と、秋生たちの頭を撫でた。
「さっきミサキちゃんが店に来てさぁ、『行けなくてゴメンね』だって」

 バクちゃんこと親父によると、巳咲はえらく落ち込んだ様子で店に現れたと言う。
「バクちゃん、明日のお誕生おめでとう。それから、いつもありがとう」
 彼女は深々とお辞儀をして、コンビニ袋ごとタバコを1カートンくれたそうだ。
「おー、ありがとう!! 中身はともかく、箱は全部記念に取っておくよ!! ……ていうか、なんで今くれんの?」
「……それが、パーティーには行けないの。冴子の優しさがジャマをして……」
「……なんかよくわかんねぇけど、元気出しな」
 とりあえず親父は巳咲の頭をなで、マーブのポスターをあげた。すると途端に巳咲は元気を取り戻し、超スキップで浮かれまくって帰ったと言う。

「なぁアキオ、あの子はどうして、ポスター1枚であんなに元気になれるんだ? 俺のパーティーは、ポスター以下なのか?」
 親父は軽く、傷ついたようだった。だけど仕方ない、そういうところが、ミサキちゃんがミサキちゃんたる所以なんだから。巳咲の人生に於いて、最も重要な位置を占めているのは、マーブ(もしくは照くん)なのだ。

 ……そうか、だから返事がないのか。

 秋生は全てを理解した。
「ミサキちゃん、たぶん今、マーブのことしか考えてないんだよ」
 たぶん彼女は、今日のお泊り会のことなんか、キレイサッパリ忘れているのだ。

posted by レイジ・レーベル at 15:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

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