第4章 リリカル・スイッチ #6



「何が『記念』だ、マジ、ウゼエ!!」

 霞さんを教えるようになって、今日でちょうど1年だから。

 記念に美園先生がくれたのは、赤ん坊ほどの大きさの、ピンクのウサギのヌイグルミであった。

「テメーなんか、こうしてやるよ!!」
 霞はウサギの耳をつかんでブンブン振り回し、思い切り壁に向かって投げつけた。ウサギさんに罪はないが、つまりは形代である。厚塗り魔女への恨みを込めて、思う存分いたぶらせていただく。

 今日の『晩餐会』も、まるで地獄の責め苦であった。あの魔女たちは「1周年を記念して」ワインを開け、酔った勢いで、ろくでもないことばかりをベラベラと!!
「ねえ先生、今となっては笑い話だけれど、あの発表会の時は、ねぇ?」
「ええ、どうなることかと思いましたもの。最初は、緊張して焦っているのかしら? って」
 まず、霞が課題曲をメチャクチャ早弾きしたことが槍玉に上げられ、後のフォローがいかに大変だったかを『笑い話』としてグチられたあげく。
「でも、美園先生のおかげで、あれだけの技術が身についたのよ、ね?」
 と、勝手に都合よく解釈され、二人は霞の才能について熱く語り、ついには。
「本当に、プロとして通用するかしら?」
「ええ、お嬢様には、無限の可能性がありますもの。ただの趣味で終わらせるのは、もったいないと思いますよ」
 酔いどれ魔女たちの話(妄想)は、霞をドイツかオーストリアへ留学させて、ピアニストとして華々しいデビューを飾るところまで飛躍した。霞にとっては、バンドでメジャーデビューより現実味のない未来である。続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 00:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

第4章 リリカル・スイッチ #5



 藤野家がパーティー準備に追われる最中、双子と珪人の携帯電話がほぼ一斉に同じメロディを奏でた。

 ♪タララタララ〜 ♪タラララタララララ〜 ♪中の君に〜ベイビベイビ〜……。

「ウゼエ、明らかにミサキメール!!」
 しかも明らかに一括送信。当然、秋生は気になった。一人だけ(たぶん珪人)『着うた』になってたのも気にはなったが。
「何か、あったのかな?」
「つーかアイツは、いつでも『何かある』から!」
「べつに何もねぇのにな」
 春樹と珪人は当然放置、彼らには「お楽しみ肉だんごを作る」という重要任務があり、手はひき肉の脂でベタベタなのだ。
「……わかったよ、見ればいいんでしょ」
 重要任務があるのは秋生も同じだが、気になるんだからしょうがない。たぶんボクが送ったメールの返事だろうし……脂を丹念に洗い落とし、携帯を手にすると。

 ♪ベイビベイビ〜……

一括送信再び、さすがに秋生も思わずキレた。
「送り先より内容をまとめろよ!!」
 そして、その内容のくだらなさに、再びキレた。

【やっぱり、喫煙渡すだけじゃあ、サミシイと思わないexclamation&question

「……はぁ? タバコ!?」
 常識的に考えて、ここで巳咲はまず、秋生が出したメールに対して、何らかのコメントを入れるべきである。【あれネット放送だったんだね】とか、【早速見たよ!】とか……なのに、全然関係ないどころか、話が見えない。
「つーかこれ、ヒトリゴトじゃん!!」
 いや待て、次のメールで、何らかのコメントがあるはずだ。アキオに返事忘れてた〜、って、慌ててまた送ったんだ。そう信じて、次のメールを開いたところ。

【相談なんだけど、このままバックレて行ったら、冴子の優しさを裏切ったことになるのかなバッド(下向き矢印)

「そんなの知るか!! いいから早く来い!!」
 だいたい【冴子の優しさ】って何だよ!? 常識的に考えて、相談するならまず、巳咲は状況を説明するべきである。これじゃ相談に乗りようがない。
「アキオ、なーにブツブツ言ってんだよ?」
「……いや、ミサキちゃんって、ホント非常識だと思ってさ」
 弟の手元を窺いながら、秋生は強く決意した。

 ミサキちゃんが来たら、絶対にハルが作った『お楽しみ肉だんご』を食わせてやる。

 ハハちゃん(双子は母をこう呼ぶ)が「何でも好きな物を入れていいよ」と言ったので、本当に何が入っているかわからない。特にハルのはヤバイぞ、うしし……。

【いいからミサキちゃんも早くおいでよ。今みんなで肉だんごを作ってるんだぴかぴか(新しい)

「なぁ、ミサキのやつ、まだ来れねぇの?」
 そう尋ねながら、春樹は一口大に切った桃とワサビを、ひき肉で包み込んだ……。
posted by レイジ・レーベル at 22:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

第4章 リリカル・スイッチ #4



【ミサキちゃん、家で使ってる歯ブラシ、持って行こうとしなかったexclamation&question

 ……それかー!! 霞からのメールで、巳咲はやっと理由がわかった。洗面所の異変(巳咲愛用の星柄歯ブラシがないこと)に気づくとは、天然のくせにあなどれねぇな冴子(ママの名前)。
 しかし、ここで引き下がる巳咲ではない。
「行かせてくれないと、家出しちゃうんだからね!!」
 せっかくコンパクトにまとめた荷物を、わざわざ大きなリュックに荷造り直した。
「やっぱりパジャマも持って行こう! あ、突然絵が描きたくなるかもだから、スケッチブックと色鉛筆も、あとマーブのDVDも、絶対見たくなるし!!」
 大きなヒトリゴトを言いながら、ママの目の前でガンガン詰め込む。
「本当に家出するからね、止めてくれるな、おっかさん!!」
 しかし、ママはシカトなのか本当に気づいていないのか、夕食の支度に夢中で見向きもしない。
「……あの、この一大事に、冴子は何を作っているのかな?」
 並んだ食材から察するに、今日のメニューはハンバーグとポテトサラダ、ならばパターンとして、色々野菜のコンソメスープが付くはず。家出するには惜しいメニューですこと……もしや、妨害作戦か?
 でも、負けない!
「ねぇママ〜、毎日お手伝いするからぁ〜、今日のところは見逃して〜?」
 そんでハンバーグその他は明日の夕食に回してあげて〜?
「じゃあ、おイモつぶしてちょうだい」
「……え、今?」
「だって、『毎日お手伝いする』んでしょ?」
「……いやそれは、明日から、って意味なんだけど」
 しかもそのメニューを明日に回す、という前提で。
「何言ってんの、明日じゃおイモが冷めちゃうじゃない!」
 だから、そういう意味じゃなくて。
 ……あーもうダメだ、今は何を言ってもムダだ。ここはとりあえず手伝って、様子を見るしかない……。続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 00:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

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