第4章 リリカル・スイッチ #3



【今から地獄の始まり。もし私がそっちに行ったら、その私は生霊だと思うの】

 ♪チロリロリ〜ン。

「……まさか、生霊じゃない……よね?」
 霞からの不吉なメールを読んだ直後だったので、秋生は少々ビビリながら玄関を開けた。

「……はーい……どちら様……」

「テメー早く開けろよ、これ以上オレをイライラさせるな!!」
 なんだケイトか、とほっとする間もなく、頭をどつかれた。
「ちょっと何なんだよいきなりー!!」
「うるせえ、『何なんだよ』はオレが言いたいよ!!」

 珪人のテンションは、明らかにいつもと違っていた。学校帰りはべつに普通(傍目にはクール、実はボーッとしてるだけ)だったのに。

「ケイト、もしかしてまた家で何かあったの?」
 秋生の視線は、足元にドサッと置かれた荷物に注がれた。お泊り用と思われるバッグの他に、何やらシャレた柄の大きな紙の手提げがふたつ。
 この大荷物で、秋生は珪人の異様なテンションを理解した。
「……また、アイリーンのチームに囲まれてたんだね?」
 アイリーンとは、珪人の姉、藍里(中3)のことである。やたらに目立つ美少女で社交的な性格のため、お取り巻き(チーム)がチヤホヤお姫様扱いしているが。
「……なんでオレまでアイドル扱いなんだよ?」
 彼らは藍里の弟も同じノリでチヤホヤとアイドル扱いなので、非社交的な珪人がうっかりチームに遭遇すると、地獄を見るのだ。
「……で、また、色々貢いでくれた訳だね」
 シャレた手提げは、チームからの差し入れである。彼らは珪人の友達関係もリサーチ済みで、何かにつけてお土産だの誰々の誕生日プレゼントだの、色々貢いでくれるのだ。珪人には悪いが、秋生たちにとっては「ラッキー!」である。
「いや、でも今回は、さすがに引くから。中見てみろよ」
「……どれどれ?」
 ふたつのうち、珪人が指差す方の紙袋を、覗いてみると。
「……え、ええーっ!?」
 確かに、これはさすがに引く。いやむしろ、背筋から脳まで鳥肌が走った。

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posted by レイジ・レーベル at 02:13 | Comment(1) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

第4章 リリカル・スイッチ #2



 さて、そろそろ、ピアノの先生がやって来る。
「ああマジで、バックレられるもんならバックレたいよ!」

 試しに今朝、聞いてみた。
「あのね、お母さん。今日のピアノ休んでもいいかな? ちょっと今日、大切な友達と、大切な用事があって」
 しかし、母の反応は。
「カスミちゃん。お友達は大切でしょうけど、それは、あなたの将来に関わるほど大事な約束なのかしら?」
 やっぱりダメか。ミサキちゃんの言う通り、「母上様に、『バースデー・イブ』なんてノリは通用しない」よねぇ……。

「あーあ。どうしてこんな家に生まれちゃったんだろう」
 もしかして、『業』ってやつなのかしら? この前見たサスペンスドラマで『尼さん探偵』(本業はどっちなんだろう?)が言っていた。
『今のあなたは、前世での行いの、報いを受けているのです。良いことをすれば、ごほうびが、悪いことをすれば、試練が待っています』
 もしかして私がこんな厳しい家に生まれたのは、前世でワガママすぎたのかしら?
「……本当にね、『服のシュミまで親の言いなり』ですからね……」
 あなたは女の子なんだから。何かにつけて母上様の理想を塗りたくられ、それを素直に受け入れてきた霞だったが、春樹の言葉で目が覚めた。
「服のシュミどころか、何もかも!!」
 改めて部屋を見回すと、ゾッとする。
 自分で選んだ物なんか、何ひとつないじゃない!!
 何もかも「欲しい」と思う前に与えられ……ミサキちゃんは「お姫様のお部屋みたいで超カワイイ」と言うけれど……この白で統一されたプリンセスゴージャスな家具を黒と古びたゴールドに、ピンクの花柄にレースが波打つファブリック類をモノトーンのヒョウ柄にしたい。そしてあの山のようなテディベア軍団を、全部ドラキュラとかガイコツにしてくれないかしら? 明かりは赤いロウソクだけでいいの、薄暗い部屋でサスペンスを見るの……そうした方が、全然心が安らぐじゃない!!

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posted by レイジ・レーベル at 02:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

第4章 リリカル・スイッチ #1



「カスミちゃんも、うまくバックレて来るんだよ?」
 学校帰りの巳咲のセリフ、ママに「ダメ」と言われたことを、「カスミちゃんも」が物語る。巳咲は「パーフェクトなバックレプランを考えた」と豪語していたが、霞の予想では確実にバレる。だってミサキちゃん、いまいちツメが甘いんだもの。

 今日は金曜日。霞たちはバクちゃん(双子の父)のお誕生会に、初めて招待された。正確には『バースデー・イブ』だそうで、藤野家では誕生日を前日からオールナイトで祝う習慣があるらしい。秋生いわく、いわゆる『カウントダウン・パーティー』だね。
 でも、今日は金曜日。ピアノのレッスンがある。夕方5時から7時までキッチリ2時間、『ピアノ室』(という名の拷問部屋)に閉じ込められて……火曜日ならレッスンだけで終わるのに、今日は金曜日。『魔女の晩餐会』が待っている……。
「『魔女の晩餐会』なんて、いかにもカスミちゃんが好きそうな世界じゃん」
 ミサキちゃんはそう言うけれど、違うのよ!! 
 霞がイメージする魔女とは……黒いマントを頭からスッポリかぶり、「エッエッ」とブキミに笑いながら、柄がグルンと丸まった杖で、グツグツ煮える鍋をかき混ぜている、ワシ鼻のおばあさんである。なのにあの魔女たちは高級ブランドで全身飾って、レースと季節の花で飾ったテーブルを囲んでいるのよ? 真っ赤な口紅ベットリ塗って、小鳥のようにチマチマ肉をついばんで、口デカイくせに米を粒単位で食べるんだよ? 魔女のくせにセレブ気取りだよ、常に微笑み浮かべてるし!!
 ちなみにここで言う『魔女』とは、霞の母上と、ピアノの先生である。

 魔女たちの会話は、いつもツッコミどころ満載だ。
「こんなに素敵なお嬢様(霞のこと)がいらして、奥様は本当にお幸せですわね」
「そうね、幸せと言うか……私にとってはもう、子供たちが生きがいなのよね」
 いいえ、生きがいと言うか、生け贄なのよね。
「私ね、時々、先生をうらやましく思うの。だって、ご自分の才能で生活できるんですもの」
 でも、ピアニストとして生活できるほどの才能はないのよね。とか思ってるよな絶対。
「私って、なんてつまらない女なのかしら、料理ぐらいしか取りえはないし」
 遠回しに家庭的アピールして優越感持ってるよ、性格悪!!
「まぁ、そんなこと言ったらバチが当たりますわよ。『つまらない女』にこんな素敵な家庭が築ける訳がありませんもの」
 いや、本当につまらない女だよ、って娘が思うぐらい、つまらないよ。
 
 ああ、ウゼエ。キャラまで厚化粧のババア二人、今夜もきっと、心にもないホメ言葉を延々と……よくわかんないけど、『同類あいあわれむ』って、こういうこと? 
 魔女たちを見ていると、『女の幸せ』って何なんだろう? と、子供心にも考える。早くに結婚して家庭を持っても、仕事を生きがいにバリバリ働いても、はた目でみればどっちもただの、「ハデなオバサン」じゃん。続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 01:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第4章 リリカル・スイッチ

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