第5章 スパイ #14



 巳咲の部屋には、双子の部屋にあるようなテーブルがない。それでもみんな習慣からか、気づくと輪になって座っている。

「……ねぇ、こういうのを、『本末転倒』って言うんじゃないのかなぁ?」

 秋生の声は結構大きかったが、あえて誰も耳を傾けなかった。巳咲のママが作ったシュークリームを食べるのと、音楽雑誌を見ることに、全神経を集中していたからである。
 秋生は「フン」と、鼻を鳴らした。

「あのさぁ。これじゃあ順番が違うよね? 『作戦が成功したらライヴに行く』んだから、まずは作戦に取り掛かるのが、物の道理でしょ?」
「……はいはい」
「そりゃ、お祝いを先に決めた方が、やる気が出るかもしれないけどさ」
 要するに秋生は、作戦を立てたいだけ、というか。
「ねぇ!! わざわざ家から持って来たんだよ!? ほら!!」
 秋生はみんなの輪のド真ん中に座り直し、一冊のノートを掲げて見せた。いつぞや見かけた、例の『ナゾのスパイ集団・ネバーランド』である。
「ほらぁ、早くコレに、作戦を書き込もうよ!!」
 つまりは、作戦を事細かに、ノートに書き込みたいのである。
「……」
「あ、ハル!! それ、アキオのだよ!!」
「うるせぇな、早く食わないヤツが悪いんだよ」
「……(怒)」
「大丈夫だよアキオ、シュークリームならまだたくさんあるから……」
 巳咲は少し、秋生がカワイソウになってきた。いや、面倒になってきた、の方が正しいかもしれない。

「問題は、シュークリームじゃないんだよ」
 秋生はアイスティーを飲み干して、みんなの輪の中心で、叫んだ。
「つーかさ、みんなちゃんと、話し合おうよ!!」

 秋生の、こういう変にマジメなところが面倒なのである。面倒だが、相手をしないともっと面倒なのである。
 巳咲はイラッときて、思わずある方向を指差した。
「ねぇアキオ。モタモタしててチケット取れなかったら、どうすんの?」
 あえて、言うまでもないが。巳咲が指差したのは、秋生も大好きなマーブル・クエーサーのポスターである。
 そして更に。秋生がすぐに納得したことも、言うまでもない。

 
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posted by レイジ・レーベル at 02:23 | Comment(29) | TrackBack(5) | 第5章 スパイ

第5章 スパイ #13



「『知らねぇ』じゃないよ、ハルがうっかり『買い物カゴ』クリックしたからじゃん!!」
「はぁ? オレはちょっと触っただけじゃねぇか!!」
「だからそれが、『買ったこと』になっちゃったんだよ!!」
 双子は罪をなすりつけ合いながら、それぞれゴチャゴチャ説明しだしたが。

「……あの、2人同時に言われても、わからないから」

 どっちがヘマをやったのか、巳先にとってはどうでもいい話である。どうせハルが悪いに決まってるし。
「あの、とりあえず、ケンカは後にしてくんない? さっさとしないと昼休み終わっちゃうよ?」
 
 さて、双子の話をまとめると、こうである。
 昨日、双子宅に、小包が届いた。宛名が『藤野樹生様』だったので、もちろん本人(双子の父)が開けた。そして中に入っていたのが、盗撮用の小型カメラだった訳である。当然、父には思い当たるフシがないので、家族全員に聞いてみた。

「オレが『懸賞当たったんじゃねぇ?』て言ったら、『じゃあなんで金を払うことになってんだ?』って」
「それでボクも、『新手の詐欺じゃないの?』ってトボけて。『相手にすることないよ』って言ったんだけど……」
「あのアホが、電話かけて『オマエらこのオレをだまそうってのか!? いい度胸じゃねぇか!!』ってケンカ売ってた」
「……で、結局、着払いで送り返したんだけど。もう本当に慌てたよ、向こうが『パソコンに履歴が残っているはず』とか言ったらしくて、もう慌てて履歴消してさぁ……」

 つまり、単にカメラが家に届いただけの話であった。結局バクちゃんは、例のサイトのことも、実は双子たちが見たことも、間違えてカメラを買ってしまたことも、知らないのだ。
「誰だよ、『親父にバレた』とか言いやがったの……」
 霞はものすごい形相で、秋生をニラんだ。そして珪人も。どうやら「バレた」と聞いて焦ったのは、巳咲だけではなかったらしい……。 続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 23:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第5章 スパイ

第5章 スパイ #12



「え、マズイじゃん!! 例のサイトって、『ネバーランド』のことだよねぇ!?」
 巳咲は思い切り動揺したが、珪人はともかく、誰も慌てる気配はなく。

「……ねぇ、『マズイ』って、何がマズイの?」
 霞はキョトンとみんなを見回し、巳咲の肩をチョンとつついた。
「バクちゃんにバレて、何かマズイことでもあるの?」
「……『何か』って言われても」
 バレた、って聞くと、マズイって言いたくなるじゃん……単に巳咲は、条件反射で動揺してしまっただけである。

「……そうだよね、べつにマズくもないか」
 バレたのが霞の母上様ならともかく、双子の父である。実の息子ですら「アイツは本当にオトナなのか?」と疑うような、あのバクちゃんである。
「だいたいウチの親父が、あんなの見ると思うか?」
「それは絶対、思わない」
 いつでも子供の味方(つーか自分が子供)のバクちゃんが、あんな『徹底管理教育』的なサイトを、見る訳がない。だいたい、そんなに教育熱心な父親だったら、双子はこんな性格になってない!!

「でも、どうしてバレたの?」
 霞の母上様ならともかく、子供はノビノビ育てる主義(つーか野放し)のバクちゃんである。息子のやることに、いちいちチェックを入れるはずがない。
「だって、見てる時に部屋入って来たりとか、なかったんでしょ?」
「うん、それはね、なかったんだけど……」続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 02:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第5章 スパイ

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