第5章 スパイ #10



 どうして世の中には、こうもジャマ者が多いのか。

 巳咲は恨めしそうに、おかわりラッシュを見つめていた。

 ……こっちはもう片付けたいのに、給食と『ランチ食べ放題』をカンチガイしてないか?

 時間的には、そろそろ片付けて教室を出ても許される頃である。しかし、今日のメインが人気メニューのミートソースだった上に、給食当番が小心者だったため、おかわりをするヤツがいつもより多い。小心者は「全員に回らなかったらどうしよう」とチマチマ配るので、結果、一人当たりの量が少なく、ナベには大量に残るのだ。おかわりしてくれ、と言わんばかりである。

 モタモタしてたら、ハルが校庭出ちゃうよ!!
 
 逆恨みだとわかってはいるが……今日のメインをミートソースにした給食センターと、小心者の給食係と、何よりこのクソ暑いのに食欲旺盛なクラスメイトを、恨まずにはいられない。

 胃にブラックホールでも開いてんじゃないの、アイツら?

 おかわりに殺到する面々を見ていると、どうも、脳まで栄養が行き届いてないヤツが多いようだ。

身長にだけ栄養が行く人、運動神経で使い果たす人、ひたすら体に蓄積するだけの人……よく食うからデブなのか、デブだからよく食うのか……ここ1年で身長は5センチも伸びたのに体重は1グラムも増えない巳咲にとって、デブはナゾの生き物である。デブに運動オンチが多いのは体が重いせいなのか、それとも生まれつき運動神経が鈍く動かないからデブなのか……。

 ナゾの生き物について考えているうちに、やっとおかわりラッシュが終わった。
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posted by レイジ・レーベル at 02:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第5章 スパイ

第5章 スパイ #9



 今日は水曜日。巳咲と霞のクラスは、4時間目が自習になった。うれしいことに国語の時間、オペラーマンのなりきり朗読ショーを見なくていい。できればこのまま永遠に消えてほしい……と願う巳咲。
 オペラーマンこと担任は、プリントを配り、「終わったら次の漢字練習と〜、意味調べをして〜、ノートを提出してくださぁ〜い」とマッタリ言って、黒板にも書きつけた。
「もぉ〜し時間内に終わらなかったら〜宿題にしますからねぇ〜」
 どうでもいいけど、コイツのしゃべり方、どうにかなんねぇのか?

「あの、先生」
 誰も頼んでないのに、使命感に燃えた目で、すっくと立ち上がる委員長。

「先生のしゃべり方、どうにかなりませんか?」
 そんな気の利いたことを、この委員長が言うはずもなく。

「誰か代わりの先生は、来ないんですか?」
 もし誰も来ないなら、私がみんなを静かに自習させますから、と言わんばかり。

 誰もテメーの言うことなんか、聞かねーっつーの!!

「代わりの先生は、来ませんがぁ……」 
 担任は、クマのヌイグルミを、教壇机の上に座らせた。
「みんなの様子は、クマさんが、ちゃんと見ているからね……静かに、自習してくださぁい?」


「みんな、自分の席で自習してください!!」
 委員長の訴えも空しく、担任がいなくなったとたん、席の移動が始まった。
「ねぇ、ミサキちゃん」
 霞は巳咲の隣の席をキープして、机をくっつけた。
「わからないところは、教えっこしようね」
 そう言って、霞はさりげなく、鉛筆の先をクマさんに向ける。

〈……ねぇ、あのクマさんって、アレだよね〉続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 23:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第5章 スパイ

第5章 スパイ #8



「ねぇカスミちゃん、美園先生とは、うまくやっているの?」
 母のその一言で、霞は確信を持った。

 盗撮の主犯は……お母さん、アナタですね。

 できることならサスペンスドラマのように、断崖絶壁で母を問い詰めたいところだが。

 ……どうして今日は家にいるのよ、二人とも。

 なぜか今日に限って、父も兄も珍しく、夕食のテーブルに揃っている。これじゃあ、事件(?)の核心に迫ることなんて、できやしない。
 だって、ほら……

「美園先生って、新しい家庭教師の先生かい?」
「違うよ父さん、お茶の先生のことじゃないか?」

 この二人は『美園先生=ピアノの先生』ってことすら知らないんだから!! まったく、家庭を振り返らないにも、ほどがある。

 久しぶりの一家団らんで、母はすこぶる、ゴキゲンだった。
「美園先生はね、サヨ先生の後に、ピアノを教えてくれている先生よ」
 これもまた珍しいネコなで声で、美園先生のことを楽しそうに話して聞かせる。美園先生が来てから昨日でちょうど1周年だの、趣味が合うからいいお友達ができて楽しいだの……あんなクサレババアが友達だなんて、専業主婦の世界って狭いのね!!

「先生のおかげでね、カスミちゃん、前よりずっと上手になったのよ。そうだ、お夕食終わったら、お父さんとお兄ちゃんに弾いてあげたら?」

 ……マジで勘弁してくれよ、もう!!

 気づくとすっかり母のペースに巻き込まれ、ピアノ室でプチ演奏会が始まった。
 母は「ショパンを聴きたいわ」などと霞にねだり、父はとっておきのワインを開ける。
「約束通り、今年もちゃんと、見つけてきたよ」
 珍しく家族団らんしている訳が、ここでわかった。
「ほら、僕らが結婚した年に、作られたワインだ」
 そう、今日は、両親の結婚記念日なのである。

 ……ホントにマジで、勘弁してくれよ、もう!!

 父はプロポーズする時に、こんなステキな約束をしたそうだ。

 結婚記念日には、僕らが結婚した年に作られたワインを飲もう、たとえ50年後でも、君のために、何が何でも絶対に、探してみせるからね。

 まるで、フランス映画のワンシーン……でも、主役がこんなハゲ歯医者と厚化粧の主婦じゃあ、ねぇ……毎年こんなイタイ演技を見せられる、子供の身にもなってみろ!!続きを読む
posted by レイジ・レーベル at 02:12 | Comment(0) | TrackBack(1) | 第5章 スパイ

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